はじめに
「金融機関向け 適応ファイナンスのための手引き」のご紹介
近年の気象災害の激甚化・頻発化を受けて、「気候変動への適応」の重要性がますます高まっている。こうした中で、適応をファイナンスと統合し経済的に内部化することにより、多くの事業会社に早期の取組着手を促すとともに、中長期的な継続実施を誘導していくことが有効である。
一方、適応ファイナンスは、グリーンボンドやサステナビリティ・リンク・ローンなどのように、原則やガイドラインの開発が十分に進んでおらず、理解が深まっていない。既に適応ファイナンスに取り組んでいるにもかかわらず、当事者がそれを認識していないケースもある。
そこで、環境省では、有識者や金融機関の専門家を招いて数度にわたり勉強会を開催し議論を重ねながら、「金融機関向け 適応ファイナンスのための手引き」を作成した。同手引きでは、適応ファイナンスの基本的な考え方を示しているほか、実施アプローチ、金融機関の役割などを整理している。また、具体的な事例を紹介することによって成功事例の創出を後押しすることもねらいとしている。
適応とは
適応の定義はなにか、また、民間事業者が適応に取り組む意義とはなにか。
適応とは:定義
- 適応とは、「気候変動影響に対応して、これによる被害の防止又は軽減その他生活の安定、社会若しくは経済の健全な発展又は自然環境の保全を図ること」である(「気候変動適応法」より)。
- 一般に、適応は「気候変動影響によるリスクの評価 → 取組の計画 → 実施 → インパクトのモニタリングと測定」の継続的なプロセスによって実施される。一方で、気候変動影響には、豪雨災害や猛暑など特定地域において突発的に生じる影響のほかに、気温上昇や降水パターンの変化、海面上昇のように広範かつ長期にわたって徐々に進行する影響もあり、効果的な適応のあり方(取組の内容、実施の時間軸、期待するインパクトなど)は対象地域や主体によってさまざまである。また、インパクトのモニタリングと測定に関する標準的な方法論も存在しない。
【一般的な適応のプロセス】
- 資料)国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のHPに基づき作成。
【適応の取組内容や時間軸の考え方の例】
地域・主体 | 取組内容の例 | 時間軸の例 |
---|---|---|
豪雨災害による影響を受ける地域・主体 | 施設に止水板や排水設備を設置 | 施設の耐用年数 |
代替物流ルートを構築 | 中期計画などの年数 | |
気温上昇や海面上昇による影響を受ける地域・主体 | 原材料の調達方法を変更 | 関連事業の想定存続年数 |
高台などに施設を移転 | 中期計画などの年数 |
適応とは:民間事業者が適応に取り組む意義
- 今後気候変動影響がますます拡大すると予測されるなか、民間事業者が適応に取り組むことは、事業の持続可能性を高める上で必要不可欠であるとともに、顧客や投資家などから信頼を得る、新たなビジネス機会を獲得するなど、競争力を高める観点からもきわめて重要である。国際的にも「異常気象」や「気候変動対策の失敗」が最も重要なグローバルリスクと認識されており、これらに対応することが社会経済全体のメガトレンドとなっている。
- 民間事業者が適応に取り組む意義として、①自社リスクへの対応、②ビジネス機会の獲得、③地域・社会の課題解決の3つが挙げられる。