サステナビリティ・リンク・ローンの借り手は、KPIの選択理由(妥当性や重要性)とSPT達成に向けた動機・意欲(野心度、サステナビリティ/ESG戦略に示した全般的なサステナビリティ目標との整合性、ベンチマーキング手法、当該SPTを借り手がいかに達成するつもりか)を貸し手に明確に伝えるべきとされています。
借り手は、上記の情報を、持続可能性に関する包括的な目標、戦略、政策等(中期経営計画、サステナビリティに関する包括的な戦略等)の文脈の中に位置づけることが望ましいとされています。
❶ KPIの選定
サステナビリティ・リンク・ローンの信頼性はKPIの選定にかかっており、信頼性の低いKPIを普及させないために、KPIの選定にあたっては以下の事項を満たすべきとされています。
- 借り手のビジネス全体にとって関連性があり、中核的かつ重要(マテリアル)であり、借り手の現在や将来の事業運営にとって高い戦略的意義を有すること。
- 一貫した方法論に基づく測定又は定量化が可能であること。
- ベンチマークが可能であること。つまり、SPTsの野心性を評価するために、外部指標や定義を可能な限り活用すること。
また、借り手はKPIの適用範囲と共にその明確な定義を提示し、算出手法、ベースラインの定義を明らかにするほか、可能な場合は業界標準と照らし合わせてKPIをベンチマークするべきとされています。
❷ SPTsの設定
各KPIに対する1つまたはそれ以上のSPTsの設定のプロセスは、サステナビリティ・リンク・ローンの組成における鍵となるため、SPTsは以下のように、野心的であるべきとされています。
- それぞれの KPIにおける重要な改善を表し、「BAU:Business as Usual(当該プロジェクトを実施しない場合、もしくは成り行きの場合)」の軌跡を超えるものであるべきである。
- 可能な場合においては、ベンチマークや外部参照値と比較可能であるべきである。
- 借り手の全体的なサステナビリティ/ESG戦略と整合しているべきである。
- ローン開始前又は開始時にあらかじめ定められた時間軸に基づいて決定されるべきである。
また、実際の目標設定の作業は、以下の観点の組み合わせによってベンチマークするべきとされています。
- 借り手自身の長期的パフォーマンス(選択した KPI に関する測定実績(可能な場合は、最低3年間)。また、可能な限り、KPI に関する将来的な予測情報。)
- 同業他社等の比較対象(入手可能かつ比較可能な場合は、同業他社のパフォーマンスに対する SPTsの相対的位置付け、又は現行の業界やセクターの水準と比較した相対的位置付け)
- 科学的根拠(科学に基づくシナリオや絶対的な基準、国・地域・国際的な公式目標、認定されたBAT(Best Available Technology)、その他の ESG テーマに関係する関連指標)
SPTsの情報開示の際に明確に言及するべきこと
また、SPTsの目標設定に関する情報開示では、以下について明確に言及するべきとされています。
- SPTs達成のタイムライン(目標達成状況を確認する日付・期間、トリガーとなる事象、SPTs のレビュー頻度が含まれる)。
- 該当する場合、KPI の改善を示すために選定された検証済みのベースラインや科学に基づく基準点、ならびに当該ベースラインや基準点を利用する根拠(日付・期間を含む)。
- 該当する場合、どのような状況においてベースラインの再計算や形式的な調整が行われるか。
- 可能な場合は、競争上の検討事項や守秘義務に配慮した上で、借り手がどのように SPTs を達成するつもりか、例えば、そのサステナビリティ/ESG 戦略の説明や ESG ガバナンスと投資、事業戦略の支援を通じて等、SPTs 達成に向けてパフォーマンスを向上させると予想される主要な手段・行動の種類と予想されるそれぞれの貢献を可能な限り定量的に示すこと。
- SPTs の達成に影響を及ぼしかねない、発行体の直接的なコントロールの及ばない他の重要な要因。
KPIとSPTsは客観性が重要であり、その内容の適切性について、借り手は第三者のレビューを求めることが望ましいとされています。また、外部レビュー機関は契約前のレビューにおいて、選定されたKPIの妥当性、頑健性及び信頼性、提示されたSPTsの根拠及び野心度、選定されたベンチマークとベースラインの妥当性と信頼性、ならびに該当する場合はシナリオ分析に基づく達成に向けた戦略の信頼性を評価すべきとされています。
❸ ローンの特性
サステナビリティ・リンク・ローンは、借り手のサステナビリティの向上を目指すものであり、事前に設定したSPTsのベンチマークに対する借り手のパフォーマンスと貸出条件等を連動させるものです。貸出条件との連動が必ずしも動機付けとして有効に機能しないと考えられる場合には、他のインセンティブとの連動も考えられますが、いずれにせよ、借り手自身のサステナビリティ向上に向けて、十分なインセンティブとして機能することが必要とされています。
❹ レポーティング
借り手は、可能な場合には、貸し手がSPTsのパフォーマンスをモニタリングし、SPTsが野心的で借り手のビジネスに対し妥当性がある状態に変わりはないか判断するため、外部機関によるESG格付等のSPTsの達成状況に関する最新情報を入手できるように、少なくとも1年に1回以上、貸し手に報告するべきとされています。借り手として、サステナビリティ・リンク・ローンによる資金調達であること を主張・標榜し、社会からの支持を得るためには、透明性を確保することが必要です。このため、借り手は、サステナビリティ・リンク・ローンであることを表明する場合には、第三者が達成状況を判別できるよう、SPTsに関する情報を一般に開示するべきとされています。
❺ 検証
【外部機関による検証】
借り手は、各KPIのSPTsに対するパフォーマンスレベルについて、独立した外部機関による検証を少なくとも年1回以上受けなければならないとされています。借り手が外部機関による検証を受けた場合には、結果に係る文書等について、貸し手に報告するべきとされています。
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