サステナビリティ・リンク・ローンの借り手は、KPI(s)の選定の根拠(すなわち、事業との関連性やマテリアリティ、借り手のビジネス全体にとって中核的か否か等)、及び、SPT(s)設定の背景(すなわち、野心度、ベンチマーキングアプローチ、当該SPTsを借り手がいかに達成するつもりか)を貸し手に明確に伝えるべきです。

借り手は、上記の情報を、借り手自身の包括的な目的、サステナビリティ戦略、方針、サステナビリティ・コミットメント、及び/又はサステナビリティに関するプロセスの文脈に位置づけることに加えて、準拠しようと努めるサステナビリティ基準又は認証に関して、貸し手に知らせることが奨励されています。

KPIsの選定

サステナビリティ・リンク・ローンは、内部及び/又は外部の一つ又は複数のサステナビリティに関するKPIを使って測定される借り手のパフォーマンスと貸付条件を連携させることで、ローン期間を通じて借り手のサステナビリティ向上の努力を支援するものであり、そのためにはKPIは借り手の中核となるサステナビリティ及び事業戦略にとってマテリアルでなければならず、また、自社の属する産業セクターに関連するESG課題に対応するものでなければなりません。

サステナビリティ・リンク・ローンの信頼性はKPI(s)の選定にかかっており、信頼性の低いKPIsを普及させないために、KPIsの選定にあたっては以下の事項を満たすべきです。

  • 借り手のビジネス全体に関連性があり、中核的でマテリアルであり、並びに、借り手の現在及び/又は将来的な事業において戦略的に大きな意義があるもの。(KPIは借り手の本業に関連があるものでなければならず、慈善事業や普及啓発活動は含まれない)
  • 一貫した方法に基づき測定可能、又は定量化が可能なもの
  • ベンチマーク化が可能であること(すなわち、SPTsの野心度に関する評価を容易にするために、可能な限り、外部参照情報又は定義を活用する)

また、借り手はKPI(s)の明確な定義を提示し、その定義は、適用対象範囲やパラメーター、及び計算の方法論、ベースラインの定義を含めるほか、実現可能な場合には業界基準及び/又は同業他社とベンチマーク化がなされるべきです。

SPTsの設定

KPI毎にSPT(s)を設定する際のプロセスは、サステナビリティ・リンク・ローンの組成における鍵となるため、SPTsは以下のように、野心的であるべきです。

  • 各KPIs値の重要な改善を表し、「Business as Usual(成り行きの場合)」シナリオと規制上要求される目標(基本的には政府によって定められる規制における目標や基準値をさすが、国際機関や業界団体等によって定められた目標や基準値等が市場においてそれらと同等のものとして認められる場合もある)の両方を超える
  • 可能な場合には、ベンチマーク又は外部参照情報と比較する
  • 借り手の全体的なサステナビリティ戦略と整合する
  • ローンの組成前又は組成時にあらかじめ設定された時間軸に基づいて決定される

いかなるSPTsも直近のパフォーマンス水準に基づくべきであり、実際の目標設定の作業については、以下の観点の組み合わせによってベンチマークするべきです。

  • 借り手自身の最低でも過去3年分のパフォーマンス。実現可能な場合には、選択したKPI(s)に関する測定実績が望ましい
  • 借り手の同業他社。すなわち、入手可能かつ比較可能な場合は、同業他社と比較した場合におけるSPTsの相対的位置付けについて(平均的なパフォーマンス水準なのか、業界トップクラスのパフォーマンス水準なのか)、若しくは現在の業界やセクターの基準と比較した相対的位置付け
  • 科学の参照。すなわち、科学的根拠に基づくシナリオ若しくは絶対値(例:炭素予算等)の体系的な参照、若しくは国・地域・国際的な公式目標(気候変動に関するパリ協定、ネットゼロ目標、持続可能な開発目標(SDGs)等)の体系的な参照、若しくは広く認知された利用可能な最良の技術やESGテーマ全体に関連性のあるターゲットを決定するためのその他の指標の体系的な参照

また、借り手は、ローン期間中の各年について、KPI毎に年次のSPTを設定することが望ましいですが、これが適切でない理由について強い根拠が示される場合には、SPTsの年次の頻度の例外について、借り手と貸し手の間で合意することができます。SPTsの毎年の設定の例外として、以下のような場合が考えられます。

  • 借り手自身で直接コントロールできない要素が大きい場合(例:CO2排出量削減等のトリガー事象を発生させるSPTは設定できるが、毎年のSPTについては、何らかの外部要因に左右される可能性が大きいと客観的に判断される場合)
  • 営業戦略・秘匿情報等、競争上の配慮が優先されると判断される場合(例:CO2排出削減量や削減時期から、非公表の設備廃止計画や設備導入計画が類推できてしまう場合)
  • 何らかの要因により、ある時点まではKPIの実績に毎年の大幅な変化が見込まれないと客観的に判断される場合であって、大幅な変化が見込まれるまでの間(例:ローン期間中に脱炭素に向けた大規模な設備投資によるCO2排出量削減を計画しており、当該設備投資までの間、有意な排出削減が見込めない場合)

また、借り手が目標設定に関して貸し手に情報を提供する際には、以下について明確に言及するべきです。

  • 目標達成に関するタイムライン(目標確認期日、トリガー事象、及びSPTsのレビュー頻度を含む)
  • 関連する場合には、KPIsの改善を示すために選定された検証済みのベースライン又は科学に基づく参照値、及び当該ベースラインや参照値を利用する根拠(日付/期間を含む)
  • 関連する場合には、どのような場合に、ベースラインの再計算又は試算の調整、及び/又はKPIs及びその後のSPTsの再計算が行われるか
  • 可能な場合には、競争上の検討事項及び秘密保持に配慮した上で、借り手がどのようにSPTsを達成するのか(例えば、借り手のESG戦略、戦略を支えるESGガバナンスと投資、事業戦略を説明する等が考えられる。すなわち、SPTsの達成に向けてパフォーマンスを向上させると予想される主要な手段・行動の種類、及び予想されるそれぞれの貢献を可能な限り定量的に示すことを通じて説明すること等。)
  • SPTsの達成に影響を及ぼし得る、借り手が直接的に管理にすることができない他の重要な要因

借り手は、自身が事前に設定したSPTsを達成するための想定しうる手段や取組について競争上の検討事項や守秘義務に配慮する事項等を踏まえた上でKPIsやSPTsに言及することが望ましいです。
また、KPIsとSPTsは客観性が重要であり、その内容の適切性について、借り手は第三者のレビューを求めることが望ましいです。外部レビュー機関は契約前のSPOにおいて、選定されたKPIsの関連性・頑健性・信頼性、設定されたSPTsの根拠及び野心度、選定されたベンチマークとベースラインの関連性と信頼性、及びSPTsの達成に向けた戦略の信頼性について、該当する場合にはシナリオ分析も活用しながら、評価すべきです。契約後については、対象範囲、KPIsの方法論、SPT(s)の設定に重大な変更があった場合、借り手は、これらの変更内容について外部レビュー機関に評価を依頼することが奨励されます。

ローンの特性

サステナビリティ・リンク・ローンは、借り手のサステナビリティの向上を目指すものであり、事前に設定したSPT(s)のベンチマークに対する借り手のパフォーマンスと貸出条件等を連動させるものです。貸出条件との連動が必ずしも動機付けとして有効に機能しないと考えられる場合には、他のインセンティブとの連動も考えられますが、いずれにせよ、借り手自身のサステナビリティ向上に向けて、十分なインセンティブとして機能することが必要です。

連動させる貸出条件等の具体例

  • 関連するローン契約において、1年毎に期日更新するような短期貸出の場合には、その期日にあわせて借り手が事前に設定したSPTsを達成した場合に金利を引き下げる、又は達成しない場合には引き上げる。
  • 関連するローン契約において、期日まで1年超の長期貸出の場合には、借り手が事前に設定したSPTsを達成した時点で金利若しくは融資関連手数料を引き下げる、又は借り手と貸し手が合意した定期的な貸出条件見直し時点において達成しない場合には引き上げる。連動させる貸出条件としてその他にも、ローン期間の延長や貸出金額の増加が考えられるが、これらに限られるものではない。
  • SPTs達成時に、達成した事実やサステナビリティ経営に積極的な企業である旨、貸し手のHP等で開示する。
  • 外部機関からSPTs達成時に達成した事実やサステナビリティ経営の高度化が認められる旨の意見書やそれに類する書類の発行を受ける。
  • 借り手がSPTsを達成しない場合には、例えば借り手が引き上げる金利相当額を拠出する等を通じて社会のサステナビリティの向上に資する取組を行う。

レポーティング

借り手は、少なくとも1年に1回以上、貸し手に以下の情報を提供すべきです。

レポーティング対象となる最新情報

  • 貸し手がSPTsのパフォーマンスをモニタリングし、SPTsが引き続き野心的で借り手のビジネスに対し関連性がある状態に変わりはないか判断するために十分な最新の情報(外部機関によるESG格付等のSPTsの達成状況に関する最新情報)
  • 当該年のSPTsに対するパフォーマンスと、融資の経済的特性について関連する影響、及びその影響が発生するタイミングについて概説した検証報告書を添付したサステナビリティ確認書

借り手として、サステナビリティ・リンク・ローンによる資金調達であることを主張・標榜し、社会からの支持を得るためには、透明性を確保することが必要です。このため、借り手は、サステナビリティ・リンク・ローンであることを表明する場合には、第三者が達成状況を判別できるよう、SPTsに関する情報を一般に開示することが奨励されています。

検証

借り手は、最後のSPTsのトリガー事象判定日に達した後まで、サステナビリティ・リンク・ローンの経済的特性の調整につながり得るSPTsに対するパフォーマンスの評価に関連する際は随時、各KPIsの各SPTsに対するパフォーマンス水準について、独立した外部検証を取得しなければなりません。借り手が外部機関による検証を受けた場合には、結果に係る文書等について、適時に貸し手と共有されなければならず、適切な場合は、一般に開示されなければなりません。

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