対象期間に発行されたグリーンボンドの概要
2018年第3四半期(2018年7月~2018年9月)は、グリーンボンド市場の多様化が進むこととなった。
8月にはジャパンエクセレント投資法人と日本プロロジスリート投資法人がグリーンボンドを発行。同年5月の日本リテールファンド投資法人に続く、投資法人のグリーンボンド発行の流れが加速することとなった。いずれも、環境改善効果が期待できるものとして、一定以上の高い外部認証を取得した適格資産のリファイナンス資金等に充当される。
商船三井は5年債を第20回債と第21回債の2トランシェで発行したが、そのうち第21回債は、個人向けグリーンボンドとして発行された。ネーミングは「三井商船ブルーオーシャン環境債」。個人向けグリーンボンドは、2017年11月に東京都が外貨建てで発行実績があるが、事業会社として、そして円建てとしては初の案件となった。
また、環境省の平成30年度グリーンボンド発行促進体制整備支援事業の補助金交付対象の第1号案件として、リコーリースのグリーンボンドが登場した。同事業は、グリーンボンドを発行しようとする企業や自治体などに対して、外部レビューの付与、グリーンボンドフレームワーク整備のコンサルティング等により支援を行う発行支援者に対して、その支援に要する費用を環境省が補助するものである。
そして、ごみ焼却発電施設事業を資金使途としたグリーンボンドを発行した日立造船は、製造業における日本初のグリーンボンドの事例となった。
住友林業は、世界で初のとなるユーロ円建て転換社債型新株予約権付社債を発行した。調達資金は、森林資源の価値を高め、気候変動への対応や地球環境に貢献する事業等に充当される。具体的には、ニュージーランドにある山林資産の取得に関わる短期借入金の返済に充当するとされた。なお、CBは利息のつかないゼロクーポン債である。
以上のように、同期間におけるグリーンボンド市場は、発行体の業種や資金使途の多様化だけでなく、個人向けグリーンボンド、グリーンCBなど、発行形態にも広がりを見せた点が特筆される。
発行体 | 発行時期 | 発行金額 | 資金使途 | 利率 | 償還期間 |
---|---|---|---|---|---|
ジャパンエクセレント投資法人 | 2018年8月 | 40億円 | グリーン適格資産の購入資金の期限前償還資金 | 0.630% | 10年 |
日本プロロジスリート投資法人 | 2018年8月 | 60億円 | 適格グリーンプロジェクトの取得資金のリファイナンス | 0.660% | 10年 |
商船三井 | 2018年8月 | 50億円 | バラスト水処理装置、Soxスクラバー、LNG燃料船、LNG燃料供給船、新型PBCF、ウインドチャレンジャー計画 | 0.420% | 5年 |
商船三井(個人向け) | 50億円 | 0.420% | 5年 | ||
リコーリース | 2018年8月 | 100億円 | 太陽光発電設備向けリース・割賦事業 | 0.190% | 5年 |
住友林業(転換社債) | 2018年9月 | 100億円 | ニュージーランド山林資産の取得のリファイナンス | - | 5年 |
日立造船 | 2018年9月 | 50億円 | ごみ焼却発電施設建設にかかる資材購入等の費用 | 0.240% | 3年 |
三井住友信託銀行 | 2018年9月 | 5億ユーロ | 再生可能エネルギー、環境不動産等のグリーンプロジェクト | 3mEuribor+50bp | 2年 |
グリーンボンドに対する発行体の関心動向
これまでの政府系機関が中心から、事業会社のグリーンボンド発行に関する関心が高まった。2017年までのグリーンボンドの発行体は、金融機関、政府関係機関等が発行市場を牽引してきたが、2018年になって、発行ニーズが事業会社に広がりを見せることとなった。この第3四半期は、その流れが加速し、その後のトレンドの起点となった時期といえる。
グリーンボンドに対する投資家の関心動向
投資家の関心は業種を超えて広がりを見せた。2018年4月に、GPIFと世銀グループによるESG共同研究の報告書が発表された(日本語訳は同年11月に公表)。それを受けたこともあり、この時期、年金を中心にグリーンボンドに関する関心が広まった。
また、ICMA原則の2018年度アップデートにおいて、SDGsとのマッピングが公表された後でもあり、グリーンボンドを含む幅広いESG投資に対して債券投資家の関心が高まった。
その他グリーンボンドのトピックス
環境省が設置した「ESG 金融懇談会」は、2018年7月27日に「ESG 金融大国を目指して」と題した提言をまとめた。
「脱炭素社会への移行、SDGs を具現化した持続可能な経済社会づくりに向けて、グリーンファイナンスを活性化させESG 金融へとシフトしていく金融のリーダーシップが強く問われている」との問題意識を提起し、ESG 要素(特に“E”)を考慮した金融商品の拡大、グリーンボンド市場規模がさらに拡大していくことの期待が示された。合わせて市場関係者には、市場の拡大に応じて、グリーンボンドのインデックスやファンド等の開発を行うことを求めた。
R&I は、従来の「R&I グリーンボンドアセスメント」(R&I GBA)のオプションサービスとして、「セカンドオピニオン」を含むR&I GBA の提供を9 月3 日から開始した。セカンドオピニオン部分では、グリーンボンド原則の4 つの基準をベースに、発行体の環境活動を加えた5 つの視点から評価を行う。第三者機関として意見書(セカンドオピニオン)を求める声が出ていたこともあり、セカンドオピニオンサービスの提供により、日本のグリーンボンド市場の発展により一層貢献していくとしている。
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