サステナビリティ・リンク・ローン原則
(Sustainability Linked Loan Principles: SLLP)
サステナビリティ・リンク・ローン原則(SLLP)は、サステナビリティ・リンク・ローン借入に関する自主的ガイドラインです。SLLPは、シンジケートローン市場で活動している主要な金融機関の代表から構成される作業部会によって2019年に策定され、その後逐次改訂が行われてきています。SLLPは、ローン・マーケット・アソシエーション(LMA)、アジア太平洋ローン・マーケット・アソシエーション(APLMA)、ローン・シンジケーション&トレーディング・アソシエーション(LSTA)が発行元となっています。
2023年9月現在の最新版はSLLP(2023年版)(英語)です。
なお、Q&Aを中心としたサステナビリティ・リンク・ローン原則に関するガイダンス(Guidance on Sustainability Linked Loan Principles)(2023年版)(英語)も公表しています。
SLLP(2023年版)は、次の5つの核となる要素で構成されています。以下は、その概要です。
1. 重要業績評価指標(KPIs)の選定
- サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)の商品の信頼は、KPIsの選定次第である。
- KPIs は以下の事項を満たさなくてはならない。
- 借り手のビジネス全体にとって関連性があり、中核的かつ重要(マテリアル)であり、借り手の現在や将来の事業運営にとって高い戦略的意義を有すること
- 一貫した方法論に基づく測定又は定量化が可能であること
- ベンチマークが可能であること。つまり、SPTsの野心性を評価するために、外部指標や定義を可能な限り活用すること
- 借り手はKPIの適用範囲と共にその明確な定義を提示し、算出手法、ベースラインの定義を明らかにするほか、可能な場合は業界標準と照らし合わせてKPIをベンチマークするべきである。
2. サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)の測定
- SPTs は誠実に設定されなければならない。
- 融資期間中、KPI 毎に毎年一つのSPT を設定することを推奨。これが適切でない理由として強い根拠が提供される場合には、SPTs 設定の頻度の例外について、借入人と貸出人の間で合意することが可能。
- 借り手は、可能であれば、かつ、競争と機密保持を考慮し、SPTsの達成に決定的な影響を与える可能性がある戦略的な情報も強調すべき。
- SPTs は野心的であるべきであり、かつ以下の要素を考慮すべきである。
- それぞれのKPIにおける重要な改善を表し、「BAU:Business as Usual(当該プロジェクトを実施しない場合、もしくは成り行きの場合)」の軌跡及び規制によって求められている目標値を超えるものであること
- 可能な場合においては、ベンチマークや外部参照値と比較可能であること
- 借り手の全体的なサステナビリティ戦略と整合していること
- ローン開始前又は開始時にあらかじめ定められた時間軸に基づいて決定されること
- SPTsは、①借り手自身の長期的パフォーマンス(可能な場合は、最低3年間)、②同業他社のパフォーマンス、➂科学的根拠に基づくシナリオ分析や絶対値などまたは政府・地域・国際的な目標との比較等、の3つのベンチマークの方法のうち複数の観点の組み合わせに基づくものであるべき。
- SPTsに関する情報開示においては、①目標達成に関するタイムライン、②(適宜)KPIの改善を示すために選定された検証済みのベースラインや科学に基づく基準点、ならびにそれらを利用する根拠、③(適宜)ベースラインの再計算や形式的な調整方針、④(可能な限り、及び、競争や守秘義務を考慮し)SPTsの達成手段、その他直接的なコントロールの及ばない重要な要因などについて明示すべき。
- セカンド・パーティー・オピニオン等の外部レビューは適宜奨励される(契約前は選定されたKPIの妥当性・頑健性・信頼性、SPTsの根拠及び野心度、選定したベンチマークとベースラインの妥当性と信頼性、ならびに該当する場合はシナリオ分析に基づく達成に向けた戦略の信頼性について、契約後は周辺環境、KPIの方法論、SPTsの測定に大きな変更が生じた場合の外部レビューの活用)。外部レビューを実施しない場合、内部の専門的知識を示す又は開発することを強く推奨。
3. ローンの特性
- SLLの特徴は、選定されたSPTs が達成されるか否かが、財務的な結果にリンクしていること。
- 例えば、あらかじめ合意されたSPTsがKPIsによる評価によって達成された場合に貸付金利が下げられ、またその逆も同様である。さらに、強い根拠がある場合には、マージン調整が適用されないという場合が含まれる場合がある。
4. レポーティング
- 借り手は、SPTsのパフォーマンスをモニタリングし、かつ、野心度について判断するため、少なくとも年一回、SPTsの達成状況に関する情報を貸し手に提供すべき。
- 少なくとも年一回、以下について貸し手に提供すべき。
- SPTsのパフォーマンスをモニタリングし、かつ、野心度等を判断するための最新情報
- SPTsのパフォーマンス及びローンの特性に与える影響等を概説した、検証レポートを添付したサステナビリティ確認書(a sustainability confirmation statement)
- 借り手は、SPTs関連の情報の一般開示を奨励。開示する場合、当該情報を借り手のサステナビリティレポート、統合報告書等に含めること又はウェブサイト等に掲載することが考えられる。
- ただし、適宜、借り手はSPTsに関する情報を一般に開示せずに、貸し手にのみ報告することができる。
5. 検証
- 借り手は、最後のSPTsのトリガーイベント後まで、商品の財務的特性の調整につながり得るSPTsのパフォーマンス評価に関連する全ての日付/期間について、独立した外部検証を取得しなければならない。
- 外部検証の結果は、貸し手に適時に共有されなければならず、また、適宜、開示されなければならない。
- セカンド・パーティー・オピニオンのような、推奨されている契約前の外部レビューとは異なり、契約後の検証はサステナビリティ・リンク・ローンにおいて必須の要素である。
参考文献
- LMA, APLMA, LSTA (2023) Sustainability Linked Loan Principles
- LMA, APLMA, LSTA (2023) Guidance on Sustainability Linked Loan Principles
- LMA, APLMA, LSTA (2019) 「サステナビリティ・リンク・ローン原則(環境省仮訳)」