ポイント

非上場のアパレルブランド企業としてサステナビリティ・リンク・ボンドを発行した最初の事例

  • シャネル社はフランスの老舗アパレル会社。トップブランドとして自らの発言力と影響力を認識し、その責任を受け入れ、気候変動などのサステナビリティに関する課題に積極的に対処するとしている。非上場企業として株主から議決権行使やエンゲージメントは受けないが、債券市場の中で自主的に気候変動対策にコミットメントを表明した。
  • 2020年9月、サステナビリティ・リンク証券フレームワークを策定。
  • シャネル社は、SBT(SCIENCE BASED TARGETS)により認定を受けている。1

詳細

発行概要 発行年月 額(百万EUR) 償還期日 利率
1 2020/9 300 2026/7 0.500%
2 2020/9 300 2031/7 1.00%
  • 国際資本市場協会(ICMA)のサステナビリティ・リンク・ボンド原則に基づき、サステナビリティ・リンク証券フレームワークを策定。
  • シャネル社のビジョンは、以下の2つの原則に基づいている。
    1. デザインによる回復: 環境に対する責任について、自社が模範となることを目指し、人々や地域社会のニーズと調和しながら、天然資源の保護、回復、再生を支援する。
    2. 包括的なアプローチ:強靭かつ公正な社会への貢献に努め、全ての人々と地域社会に尊厳と敬意を与えるとともに、サヴォアフェール(savoir-faire)2 と創造性を促進する。
  • 2020年9月にサステナビリティ・リンク証券フレームワークを策定。
サステナビリティ計画との関係

上記2つの原則に基づいたビジョンを、以下の5つの行動分野に置き換えている。

  1. 気候変動の抑制(SBTの設定)
  2. 自然の回復と再生を助ける(再生型農業)
  3. 責任と回復力のあるサプライチェーンの確保
  4. 製品のライフサイクルの改善(製品の耐久性とライフサイクルの最大化、持続可能な素材使用の増加のための新しい技術とイノベーション)
  5. サヴォアフェール(savoir-faire)と新しい発想の育成

行動分野の中でも、2020年から2030年までの気候変動に関しては、達成すべき行動計画である「CHANEL Mission 1.5°」を策定。グループの今後のサステナビリティ向上を測るために、以下の3つのKPIを選定している。

SPTs
  • SPT 1: 2030年までに、スコープ1および2のGHG絶対排出量を(2018年基準で)50%削減
  • SPT 2:2030年までに、スコープ3のGHG絶対排出量を(2018年基準で) 10%削減(販売ユニットあたり40%に相当する)
  • SPT 3: 2025年までに事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーに切り替え
KPIs
  • カーボンフットプリントの排出量(スコープ1および2)とバリューチェーンの排出量(スコープ3)
    • KPI 1: スコープ1および2のGHG排出量(単位:絶対排出量および販売ユニットあたりの排出量)
    • KPI 2: スコープ3のGHG排出量(単位:絶対排出量および販売ユニットあたりの絶対排出量)
  • 事業活動における再生可能エネルギー発電
    • KPI 3: 事業活動における再生可能エネルギー電力の割合
債券の特性
  • SPT1およびSPT2の両方を達成できなかった場合は、支払日(2031年7月31日)に、債券の元本の75bpを投資家に支払う。
  • SPT3を達成できなかった場合は、満期時(2026年7月31日)に、債券の元本の50bpを投資家に支払う。
レポーティング
  • GHGプロトコルを用いて定期的にスコープ1、2、3の排出量に関する情報を提供。スコープ1と2は毎年報告するが、スコープ3を含めたレポーティングは2025年までに実施。
  • RE100へのコミットメントの一環として、全世界の電力構成における再生可能エネルギーの割合を年単位で報告。 これらのKPIの進捗状況は、CHANEL Mission 1.5°に基づく報告の一環として、シャネル社のウェブサイトで開示される。
検証
  • 2025年までのレポーティング期間において、目標に対するパフォーマンスについての検証を実施する。
外部レビュー
  • サステナビリティ・リンク証券フレームワークに関するVigeo-Eiris社によるSPOを取得。ICMAのサステナビリティ・リンク・ボンド原則(SLBP)との整合性が確認されている。
  • 将来的に同フレームワークを更新する場合、外部レビュー機関によるレビューを含め、透明性およびレポーティングの開示について、現行のレベルを維持または改善する。フレームワークが更新された場合には、ルクセンブルグ証券取引所のウェブサイト(www.bourse.lu)で公開され、本フレームワークに置き換わる。
  • 1 各社が設定した目標は、地球の気温上昇を産業革命前の気温と比べて2℃未満に維持するために必要な脱炭素化のレベルと一致している場合に「科学と整合した」ものとみなされる。
  • 2 フランス語でノウハウ、機転、クリエイティビティといった概念を意味するとされる。
  • Vigeo-Eiris(2020)“Second Party Opinion”
    Chanel (2020) “Sustainability-linked Bond Framework 2020” Chanel
    Albuquerque, F. (2020) “Chanel Launches Sustainability-Linked Bond” NordSIP 等を基に環境省作成