サステナビリティ・リンク・ボンド原則
(The Sustainability-Linked Bond Principles:SLBP)
サステナビリティ・リンク・ボンド原則(SLBP)は、サステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)発行に関する自主的ガイドラインです。(ESGの観点からの)サステナビリティに貢献する企業を奨励し資金供給する上で、債券市場の役割を発展させるために、2020年6月に策定されました。
SLBPでは、SLBの定義を、発⾏体が事前に定義したサステナビリティ/ESG⽬標を達成しているか否かに応じて、債券の財務的及び/又は構造的特性が変化し得るあらゆるタイプの債券商品、としています。調達資⾦は⼀般的な⽬的に充当されることを意図しています。
2024年7月現在の最新版は、SLBP2024年版(英語)です。SLBPは2020年の初版策定以降、適宜更新されています。2023年の改訂では、ソブリン債に関連する項目の追加がありました。2024年の改訂では、KPIsに求められることについて追記された(KPIsは発行体全体のサステナビリティ戦略又は方針と整合的で、かつ、その発行体にとって最もマテリアルな戦略的側面を反映しているべき等)他、KPIレジストリ及びKPIレジストリ内の注記の参照を奨励することが追記されました。また、2021年2⽉には、SLBPに関するガイダンスハンドブック(Q&A)が作成・公表されました。その後、その他のテーマのQ&Aと統合され、現在の最新版はガイダンスハンドブック(2024年6月版)(英語)になります。
SLBPは、5つの核となる要素で構成されています。以下は、その概要です。
1. 重要業績評価指標(KPIs)の選定
- サステナビリティ・リンク・ボンド市場の信頼性は、1つ又は複数のKPI(s)の選定に懸かっている。信頼性の低いKPIs選択の普及を避けることは、サステナビリティ・リンク・ボンドの成功にとって重要である。
- KPIsは以下であるべきである。
- 発⾏体のビジネス全体にとって関連性があり、中核的かつマテリアルであり、発⾏体の現在及び/⼜は将来的な事業において戦略的に⼤きな意義のあるもの。
- 一貫した⽅法に基づき測定可能、⼜は定量化が可能なもの。
- 発行体全体のサステナビリティ戦略又は方針と整合的であり、かつ、その発行体にとって最もマテリアルな戦略的側面を反映しているもの。
- 外部からの検証が可能なもの。
- ベンチマークが可能であること。すなわち、SPTの野⼼度に関する評価を容易にするために、可能な限り外部参照情報⼜は定義を活⽤すること。
2. サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)の設定
- SPTsは真摯かつ誠実に設定されなければならず、発行体はSPTsの達成に重大な影響を及ぼし得る戦略的な情報を開示すべきである。
- SPTsは以下のように野⼼的であるべきである。
- 各KPIs値の重要な改善を表し、「Business as Usual(成り⾏きの場合)」シナリオを超えるものである。
- 可能な場合には、ベンチマーク⼜は外部参照情報と⽐較できる。
- 企業発⾏体の場合には全体的なサステナビリティ/ビジネス戦略と整合し、⼜、ソブリン発⾏体の場合にはサステナブル開発政策と整合している。
- 債券発⾏前(⼜は発⾏時)に設定された時間軸に基づき決定されている。
- ⽬標は複数のベンチマーク⼿法の組み合わせに基づき設定されるべきである。
- 発⾏体⾃⾝の最低でも過去3年分のパフォーマンス。実現可能な場合には選択したKPI(s)に関する測定実績が、また、可能な場合には選択したKPIの将来の予測情報が望ましい。
- 発⾏体の同業他社。すなわち、⼊⼿可能かつ⽐較可能な場合は、同業他社と⽐較した場合におけるSPTsの相対的な位置付けについて、若しくは現在の業界⼜はセクター基準と⽐較した相対的位置づけ。
- 科学の参照。すなわち、科学的根拠に基づくシナリオ若しくは絶対値の体系的な参照、若しくは国・地域・国際的な公式の⽬標の体系的な参照、若しくは広く認知されたBAT(利⽤可能な最良の技術)⼜は発⾏体の環境・社会課題に関連性のあるターゲットを決定するためのその他指標の体系的な参照。
- ⽬標設定に関する情報開⽰では、以下について明⽰すべきである。
- ⽬標達成に関するタイムライン(⽬標確認期⽇/期間、トリガー事象及びSPTsの頻度を含む)。
- 関連する場合には、KPIsの改善を⽰すために選定された検証済みのベースライン⼜は参照値、及びそのベースライン⼜は参照値が採⽤された根拠(⽇付/期間を含む)。
- 関連する場合には、どのような場合に、ベースラインの再計算⼜は試算の調整が⽣じるのかに関する説明。可能な場合には、競争⼜は秘密保持に配慮した上で、発⾏体がどのようにSPTsを達成するのか。
- SPT(s)の達成に影響を及ぼし得る、発⾏体が直接的に管理することができない他の重要な要因。
- サステナビリティ・リンク・ボンドの発⾏に際し、発⾏体が外部レビュー機関を任命し、サステナビリティ・リンク・ボンド原則の核となる5つの要素との適合性を確認することが望ましい(セカンド・パーティー・オピニオンの取得等)。
3. 債券の特徴
- サステナビリティ・リンク・ボンドの基礎となるのは、債券の財務的及び/又は構造的特性が、選定したKPI(s)が事前に定義したSPT(s)を達成するか否かに応じて変化することである。すなわち、サステナビリティ・リンク・ボンドには、トリガー事象の発生に伴い財務的及び/又は構造的特性に対して何らかの影響が生じることが必要である。利率の変動可能性が典型的な例だが、他のサステナビリティ・リンク・ボンドの財務的及び/又は構造的特性の変化について考慮することも可能である。
4. レポーティング
- 発⾏体は以下の項⽬を含む最新の情報を容易に⼊⼿可能な形で開⽰すべきである。
- 選択したKPI(s)のパフォーマンスに関する最新情報。
- SPTsに対するパフォーマンス、それによる債券の財務的及び/⼜は構造的特性への影響、及び、その影響が発⽣するタイミングを概説した、SPTに関する検証保証報告書。
- 投資家がSPTsの野⼼度を測るために有⽤なあらゆる情報。
- レポーティングは、定期的に、少なくとも年1回、並びにサステナビリティ・リンク・ボンドの財務的及び/⼜は構造的特性の調整につながり得るSPTsに対するパフォーマンスの評価に関連する場合は随時、公表されるべきである。
5. 検証
- 発行体は、最後のSPTのトリガー事象判定日に達した後まで、年1回、並びにサステナビリティ・リンク・ボンドの財務的及び/又は構造的な特性の調整につながり得るSPTに対するパフォーマンスの評価に関連する際は随時、監査法人又はサステナビリティコンサルタントなどの関連した専門的知見を有し適格な外部レビュー機関より、各KPI値の各SPTに照らしたパフォーマンスについて独立した外部検証を受けるべきである。
- 取得が望ましいセカンド・パーティー・オピニオンのような発行前の外部レビューとは異なり、発行後の検証はサステナビリティ・リンク・ボンドにおいて必須の要素である。
- SPTsに対するパフォーマンスに係る外部検証は、公開情報として開示されるべきである。
参考文献
- ICMA(2024)"Sustainability-Linked Bond Principles Voluntary Process Guidelines June 2024"