グリーンボンド原則(Green Bond Principles: GBP)
グリーンボンド原則(GBP)は、グリーンボンド発行に関する自主的ガイドラインです。グリーンボンドの透明性の確保、情報開示及びレポーティングを推奨し、市場の秩序を促進させるため、2014年1月に策定され、その後逐次改訂がおこなわれてきています。GBPの事務局は、国際資本市場協会(ICMA)が担っています。GBPは、グリーンボンドの国際的な基準として一般的に認識されています。
2025年9月現在の最新版はGBP(2025年)(英語)です。2025年に発行されたGBPでは、Green Enabling Projects Guidance(2024年)(英語
、日本語仮訳
)に関する言及が追加された他、グリーンプロジェクトの定義として資産、投資、及びその他の関連的支出や付随的支出に加え「活動(activities)」が追加されました。
*Green Enabling Projects Guidance(2024年)については、関連して2025年4月に環境省が「グリーンプロジェクトに寄与する事業の考え方」を公表しているので、参照ください。
なお、グリーンボンド原則(GBP)を補完・明確化するため、以下を公表しています。
①グリーンプロジェクトマッピング(2021年)(PDF)
②ガイダンスハンドブック(2025年)
③インパクト・レポーティングに関するハンドブック(2024年)
④資金充当レポーティングに関するガイダンス(2025年)
⑤グリーン、ソーシャル、サステナブル債券市場のためのタクソノミー・命名法の有用性(2021年)(英語)
⑥グリーン、ソーシャル、サステナブル債券のSDGsとの関連性に関するハイレベルマッピング(2023)(英語)
⑦サステナビリティ基準及びラベルに関するレポート(2020年)(英語)
以下は2025年版GBPの概要です。
GBPの4つの中核要素
1. 調達資金の使途
- 適格なグリーンプロジェクトの分類を例示。
- グリーンボンド原則は、気候変動緩和や気候変動適応、自然資源の保全、生物多様性の保全、汚染の防止と管理などの環境目的に貢献するグリーンプロジェクトについて、複数の幅広い適格性の分類を明確に認めている。またグリーンイネーブリングプロジェクトは適格グリーンプロジェクトのバリューチェーンの成立及び/又は実行に必要な要素となり得る。全てのグリーンイネーブリングプロジェクトは、明確で定量可能な環境面での便益をもたらすべきで、かつ、潜在的な環境及び社会への負のインパクトがないことを確保し、資金使途とする場合にはGreen Enabling Projects Guidance(英語
、日本語仮訳
)も併せて参照すべきである。
- 発行体が、パリ協定の目標と整合的なネットゼロエミッション戦略の実施に向けたプロジェクトに対する資金調達を希望する場合、発行体レベルの開示と気候変動移行戦略のためのガイダンスとして、「クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック(2023年)(英語
日本語
)」を参照することもあり得る。
2. プロジェクトの評価と選定のプロセス
- 発行体は、以下の点を投資家に対して明確に伝えるべきである。
- 適格なグリーンプロジェクトの環境面での持続可能性に係る目標;
- 対象となるプロジェクトが適格なグリーンプロジェクトの分類に含まれると判断するプロセス;及び、
- 関連するプロジェクトに付随すると認識される社会的、環境的リスクを特定・管理するプロセスについての補完情報
- 発行体は、以下を実施することが奨励される。
- 上記の情報を、発行体の環境面での持続可能性に関する包括的な目的、戦略、及び/又はプロセスの文脈の中に位置づけること;
- 関連する場合は、政府又は市場ベースのタクソノミー、関連する適格性規準とプロジェクトの適合に関する情報を提供し、プロジェクト選定において参照した環境基準又は認証を公開すること;更に、
- 関連するプロジェクトから生じる、社会及び/又は環境への負のインパクトによる既知の重大なリスクに対する緩和策を特定するプロセスを有すること。
3. 調達資金の管理
- グリーンボンドによって調達される資金に係る手取金、あるいは手取金と同等の金額は、サブアカウントで管理されるか、サブポートフォリオに組み入れられるか、又はその他適切な方法のいずれかにより発行体により追跡されるべきである。また、当該手取金は、適格なグリーンプロジェクトに係る発行体の投融資業務に関連する正式な内部プロセスの中で、発行体によって証明されるべきである。
- グリーンボンドが償還されるまでの間、追跡されている手取金の残高は、一定期間ごとに、当該期間中に実施された適格グリーンプロジェクトへの充当額と一致するように調整されるべきである。発行体は、未充当資金の残高についての想定される一時的な運用方法を投資家に知らせるべきである。
- 高い水準の透明性の確保を奨励する。
4. レポーティング
- 発行体は、資金使途に関する最新の情報を作成・維持し、容易に入手可能な形で開示すべきであり、また、その情報を調達資金がすべて充当されるまで年に一度は更新し、かつ重要な変化があった場合は速やかに更新すべきである。
- この年次報告書には、グリーンボンドの調達資金が充当されている各プロジェクトのリスト、各プロジェクトの概要、充当された資金の額及び期待されるインパクトが含まれるべきである。
- インパクトを伝える際には、定性的なパフォーマンス指標を使用すること、及び、実現可能な場合には、定量的なパフォーマンス指標を使用すること及び定量値を導く上で用いた主要な算出方法及び/又は仮定を開示することが望ましい。
- 発行体は、「ハンドブック インパクト・レポーティングについて調和のとれた枠組みを目指すガイダンス文書(2024年)
」に示されるガイダンス及びインパクト・レポーティングのためのテンプレートを、可能な場合には、参照し、採用すべきである。
重要推奨事項
グリーンボンド・フレームワーク
- グリーンボンド・フレームワーク又は法定書類により、グリーンボンド又はグリーンボンドプログラムがグリーンボンド原則の4つの核となる要素(調達資金の使途、プロジェクトの評価と選定のプロセス、調達資金の管理、レポーティング)に適合していることを説明すべきである。
- 当該グリーンボンド・フレームワーク及び/又は法定書類は、投資家が容易にアクセス可能な形式で参照できるようにすべきである。
外部レビュー
発行体は、外部レビュー機関を任命し、債券発行前の外部レビューにより、グリーンボンド又はグリーンボンドプログラム及び/又はフレームワークと前述のグリーンボンド原則の4つの要素(調達資金の使途、プロジェクトの評価と選定のプロセス、調達資金の管理及びレポーティング)との適合性を評価することが望ましい。
また、外部レビューについては、グリーンボンド原則における規定の他、「外部レビューに関するガイドライン」が策定されています。
外部レビュー機関によるレポートの内容と情報開示、外部レビュー機関の専門性と倫理的基準に関する自主的ガイダンスを定めた「外部レビューに関するガイドライン」は2018年6月に策定され、2020年(6月)と2021年(2月)、2022年(6月)に改訂されました。同ガイドラインでは、外部レビューのサービスとしてセカンドパーティ・オピニオン、検証、認証、スコアリング/レーティングの4つを定義した上で、外部レビュー機関が則るべき5つの事項として、①誠実性(Integrity)、②公正性(Objectivity)、➂プロフェッショナルとしての能力及び正当な注意(Professional competence and due care)、④守秘義務(Confidentiality)、⑤プロフェッショナルとしての行動(Professional Behaviour)をあげています。これらの原則に基づき、以下のことが外部レビューに求められています。
- 外部レビューを実施するための組織構造や実施手順、外部レビュー実施のために必要な経験や資格を有するスタッフの配置
- 外部レビューの目的・範囲、独立性と利益相反に関する声明、定義、分析のアプローチや手法、レポートのアウトプットなどに関する情報の開示
- グリーンボンドの要件に合うプロジェクト分野に関する専門性、環境面での利点の評価、インパクトや関連するリスクに対する評価、グリーンボンド原則との整合性の確認
尚、「外部レビューに関するガイドライン」の2020年の改訂では、特にセカンドパーティ・オピニオンに関する独立性の重要性について補完されています。
また、同ガイドラインの2021年の改訂では、ICMAが2020年6月に作成した「Sustainability-Linked Bond Principles」を受けて、同原則で要求されているKey Performance Indicators(KPIs)やSustainable Performance Targets(SPTs)に関して外部レビュー機関に求められる専門性、外部レビューに含める内容、情報開示する内容等について追記されています。
同ガイドラインの2022年の改訂では、クライメート・トランジション・ファイナンス・ ハンドブックに関連するいくつかの条項が含まれています。
「外部レビューに関するガイドライン」2022年版(英語)はこちらをご覧ください。
ICMAでは、2018年にサステナビリティボンド・ガイドラインを策定し、2021年に改訂されました。同ガイドラインでは、サステナビリティボンドは、調達資金全てがグリーンプロジェクトおよびソーシャルプロジェクトの初期投資又はリファイナンスのみに充当され、かつ、グリーンボンド原則とソーシャルボンド原則の4つの核となる要素に適合する債券としています。また、環境および社会的便益の両方がある場合、それをグリーンボンド/ソーシャルボンド/サステナビリティボンドのいずれで称するかは、発行体にゆだねられているとしています。
尚、サステナビリティボンド・ガイドライン2021年改訂版では、4つの核となる要素に加えて、新たに重要推奨事項(外部レビュー、グリーンボンド・フレームワーク)を提示しています。
*ソーシャルボンド原則はソーシャルボンド発行の自主ガイドラインとして2017年に策定され、現在2023年版に更新されています。
参考文献
- ICMA (2025) 'Green Bond Principles Voluntary Process Guidelines for Issuing Green Bonds'
- ICMA (2025) 'Green Enabling Projects Guidance'
- ICMA (2025) 'Guidance Handbook'
- ICMA (2024) 'Handbook Harmonized Framework for Impact Reporting'
- ICMA(2023)'Climate Transition Finance Handbook'
- ICMA (2022) 'Guidelines for Green, Social and Sustainability and Sustainability-Linked Bonds External Reviews'
- 環境省(2025)「グリーンプロジェクトに寄与する事業の考え方」