ポイント:全調達資金の借り換えの割合に制限を設定した事例

  • NatWest社は、英国ロンドンに本点を置く1億2500万人の顧客を持つ銀行。同社のグリーンボンドとソーシャルボンドはEnvironmental Finance社のBond Awards 2022で受賞。受賞審査で評価されたポイントは、ESG債の「追加性」を明確に示すべきという投資家の高まる懸念に応え、調達資金のうちどの程度を既存の融資の借り換えに充てることができるかを明確に制限している点である。具体的には、同社は、グリーンボンドの調達資金の50%以上を新規融資に充当することにコミット(ソーシャルボンドは調達資金の25%以上)。発行から12カ月後に最初の年次発行後レポーティングを待たず、発行時に充当に関する最初のレポーティングを公表したことも、評価された。

詳細

発行概要   発行年月 金額(百万USD) 償還期日 利率
1 2022/8 998 2028/9 2.057%
NatWest社によるグリーンボンド発行は、2023年8月末現在、上記の発行のみ。
サステナビリティ計画との関係

NatWest社は、2050年までに、ファイナンストエミッション、運用資産、業務上のバリューチェーンのネットゼロを目指すことを、掲げている。同社のフレームワークでは、ネットゼロ経済への移行を支援するための投資に関する明確で透明性の高い定義を提供することを意図している。

フレームワーク

NatWest社は2020年10月に「グリーン、ソーシャル、サステナビリティボンドフレームワーク」を発行し、2022年12月に上記フレームワークを更新し、「グリーン、ソーシャル、サステナビリティファイナンスフレームワーク」を発行した。なお、同フレームワークでは、資金使途の各カテゴリーに対応するEUタクソノミーの経済活動分類の項目が示されているが、必ずしもEUタクソノミーの閾値をそのまま資金使途の適格基準とはせず、グリーン適格のガイダンスという位置づけで記載されている。

調達資金の使途
  • 再エネ:再エネの発電、設備、開発、製造、建設、運用、貯蔵、保守のための適格資産等。
  • 省エネ:エネルギー効率の技術、製品、システムの開発、製造、修理、保守、設置をサポートする資産。建物のエネルギー性能に関する専門サービス。
  • 持続可能な水と排水管理:持続可能な上下水道施設の建設、延長、更新、アップグレードまたは運用を支援する資産等。
  • 汚染防止と管理:持続可能な廃棄物管理プロジェクトの開発、建設、運営、メンテナンスのための資産。
  • クリーンな交通:低炭素輸送への移行を支援する資産
  • グリーンビルディング:地域、国、国際的に認められた基準や認証を満たすグリーンビルの建設、取得、改修
  • 自然資源・土地利用:SFC等の認証を取得している資産、持続可能な農業を支援する資産、英国・EUの有機農業規則に準拠して認証された農場等。
プロジェクト評価及び選定プロセス

グリーン・ソーシャル・サステナビリティ・ボンド・ワーキンググループを社内に設置。同ワーキンググループは、債券市場、財務リスク、ソーシャルファイナンス及び気候変動等の部署に所属する行員で構成されており、その他の専門家も適宜参加している。同ワーキンググループは可能な限り毎月定期的に会合を開催。

調達資金の管理

発行後、純収益は財務部がポートフォリオベースで管理する。

レポーティング
  • 資金使途とインパクトに関するレポーティングは同社ウェブサイトで開示。レポーティングは発行から1年以内、その後は少なくとも毎年開示。また、レポーティングについては、ICMAのインパクトレポーティングのフレームワークに従うべく最善を尽くす。
  • 資金使途レポーティングでは、次の指標を提示:①グリーンアセットの各カテゴリーに配分された調達資金の合計額、②ポートフォリオに含まれる適格資産の数、③未充当資金の残高、④最初の充当後にポートフォリオに追加された新規ローンの量と割合。インパクトレポーティングでは、次の指標を提示:①再エネ(発電量(MWh)、炭素排出回避量(tCO2換算)、②省エネ:発電削減量(MWh)、炭素排出回避量(tCO2換算)、③持続可能な水と排水管理:年間の排水処理量、飲料水を供給された人の人数、④汚染防止と管理:リサイクル量(トン)、年間の再生可能エネルギー発電量(MWh)、年間の排出回避量(CO2換算)、⑤クリーン交通:EV充電ステーション及び水素充填ステーションの設置数(総容量)、電気自動車・ハイブリッド車・水素燃料電池車の融資台数、⑥グリーンビルディング:炭素排出回避量(tCO2換算)、⑦自然資源と土地利用:自然景観の保全面積(km2)、1ヘクタールあたりの(生態系的に)持続可能な農業生産量(t)
外部レビュー
  • 2022年12月、Sustainalytics社より上記フレームワークに対するSPOを取得。ICMAのグリーンボンド原則等との整合性が確認されている。
  • 満期まで毎年、第三者機関に資金使途に関する検証(資金使途レポーティングに関する限定保証)を依頼する可能性がある。
  • 出所: Environmental Finance(2023) Environmental Financeデータベース、 NatWest (2022) “Green, Social and Sustainability Financing Framework”等を基に環境省作成