ポイント:水資源分野の事例

  • Manila Waterは、フィリピンの首都マニラ東部を中心に600万超の住民に対して上下水道事業を展開する企業である。フィリピン財閥企業であるアヤラ・コーポレーションの子会社である。同社は1997年に設立され、同年にマニラ首都圏上下水道供給公社(MWSS)の民営化により、コンセッション契約に基づき水道の運営権を引き受け、2000年より操業を開始した。2005年にはフィリピン証券取引所に上場している。
  • 2020年7月に、サステナビリティボンドを発行した。金額は500百万USD、期間は10年である。共同主幹事として、BPIキャピタルコーポレーション、Citi、Credit Suisse、HSBC、みずほ証券、UBSが参画した。
  • 調達資金は、債務の借り換えと設備投資に充当される予定である、対象プロジェクトには、持続可能な上下水管理、陸域・水域の生物多様性保全、手頃な価格での基礎インフラ整備等が含まれる。
  • 今般のサステナビリティボンドの発行では、同社がコミットメントしているSDGsの17の目標の一つ「清潔な水と衛生」に係る取組を推進することを企図している。また、事業展開エリアにおける重要な上下水道インフラ計画に充当するための資金源を多様化することも狙いの一つである。
  • 同社は、2004年にサステナビリティフレームワークを策定し、翌年にはフィリピン発のサステナビリティレポートを発行する等、先進的な取組みを実施してきた経緯があり、同国のサステナビリティ分野におけるパイオニアといえる位置づけにある。

詳細

発行概要   発行年月 金額(百万USD) 償還期日 利率
1 2020/7 500 2030/7 4.375%
中長期計画との関係

2004年にサステナビリティフレームワークを策定しており、5つの重点分野を定めている。具体的には、従業員のケア・育成に始まり、飲料水や衛生設備へのアクセスを提供する水道サービスを通じて、健康・安全を守り、コミュニティの構築、環境保護の支援、地域・国の経済へ貢献すること等を記している。今般のサステナビリティボンド発行は、当該フレームワークで規定する重点分野における取組を推進するものである。

フレームワーク

今般のサステナビリティボンド発行に際し、2020年7月に初版のサステナビリティファイナンシングフレームワークを策定している。

調達資金の使途
  • 適格なグリーンプロジェクト
    • 水のセキュリティ、水システムの回復力、水道システム上の水・エネルギー損失管理
    • 廃水収集および処理サービス
    • 生物多様性と保全
  • 適格なソーシャルプロジェクト
    • 低所得コミュニティのための水と衛生のインフラストラクチャー
プロジェクト評価及び選定プロセス
  • 対象プロジェクトは、同社のCEO、CFO等で構成されるサステナブルファイナンス委員会により評価・選択される。
  • 同社は環境・社会に重大な影響を与える上下水道サービスを中心に事業を展開していることから、プロジェクトの特定、開発、評価のプロセスは、政府規制当局との調整を伴う。マニラ首都圏東部のコンセッション契約については、政府との合意により、パフォーマンス指標と目標の報告、事業計画の作成・承認等のプロセスがある。
  • 事業計画は、MWSS規制局(MWSS RO)によって包括的にレビューされ、最終的にプロジェクトや料金等が承認される。
調達資金の管理
  • グリーン/ソーシャル/サステナブルボンドで調達した資金は、24か月以内に適格プロジェクトと資産に充当するよう努めるとしている。未充当資金は、同社の財務方針に沿って現金・現金同等の投資商品として保管される。
レポーティング

インパクトレポートには、対象プロジェクトに応じて以下の指標が利用される。結果については、年次統合報告書にて公表される。

持続可能な水と廃水管理
  • 給水で対象となっている人口
  • 利用可能な水(100万リットル/日)
  • 水の汲み上げ(百万㎥)
  • 水の生産(100万リットル/日)
  • 供給された水の量/請求済みの水の量(百万㎥)
  • 無収水率(%)
  • ネットワーク効率により節約された水の量(百万㎥)
  • 飲料水の水質基準への準拠
  • 下水道および衛生サービスの適用範囲(%)
  • 下水道接続数
  • 収集および処理された廃水の量(百万㎥)
  • 除去された汚染物質(年間トン)
  • 排水品質基準への準拠
陸生・水生生物多様性の保全
  • マニラ首都圏の河川から流入する有機汚染物質の量
手頃な価格での基礎インフラ整備
  • 初めて給水サービスを受けた人口
  • 新しい水道接続の数
  • 給水能力の向上(百万リットル/日)
  • 供給される水の量の増加(百万㎥)
  • 初めて下水道サービスを受けた人口
  • 新しい下水道接続の数
  • 初めて衛生サービスを受けた人口
  • 廃水処理能力の向上(㎥/日)
  • 収集および処理される廃水の量の増加(百万㎥)
外部レビュー
  • サステナビリティファイナンシングフレームワークに対する外部レビュー取得(DNV GL)
  • レポーティングについても、外部保証(external assurance)を取得予定
  • CBI(2020)“Data”、Manila Water (2020) “Sustainable Financing Framework” 等を基に環境省作成