インドネシアで発足した金融プラットフォームだが、SPCであるTLFF I Pte. Ltdはシンガポールにて設立されている。

アジア太平洋地域初の民間企業支援のための事例

  • The Tropical Landscapes Finance Facility(TLFF)は、国連環境計画(UNEP)、世界アグロフォレストリーセンター(ICRAF)、BNPパリバ(BNP)、ADMキャピタルによる金融プラットフォームである。TLFFは、インドネシア政府の優先事項、パリ協定、持続可能な開発目標に沿って、グリーン成長と持続可能な農業に焦点を当てたインドネシア現地のプロジェクトや企業に長期資金を提供することを目的として、2016年に発足した。インドネシアで発足した背景として、同国の多くの森林地帯が農業への転換によって脅かされており、人口の推定25%が未だ1日2ドル以下で生活していることが挙げられている。
  • 2018年2月に同社初のサステナビリティボンドを発行した。当該プロジェクトボンドは、総額95百万USD(約100億円)のマルチトランシェとなっている。BNPパリバがリードアレンジャーを担っており、ADMキャピタルは、ロイヤルレスタリウタマ(RLU)がTLFFのESG基準に準拠していることを確認するため、環境・社会関連の項目(E&S)についてモニタリングし、結果を検証するために年次監査を実施する。
  • 調達資金は、フランスのタイヤメーカーであるミシュラン(49%)と、インドネシアを拠点に木材事業等を展開するバリトパシフィックグループ(51%)の合弁事業「ロイヤルレスタリウタマ(RLU)」へ長期資金(期間15年)として提供され、同社を通じて、インドネシアのジャンビ州、東カリマンタン州において、持続可能なゴム農園の開発と荒廃した土地の修復プロジェクトが実施される。当該ローンの一部には、米国国際開発庁(USAID)による保証が付されている。
  • RLUは、従前よりインドネシアの森林破壊に悩む地域において、持続可能な大規模ゴム農園の開発を目指していた。ゴムの木の生育には6〜7年の期間がかかり、多額の先行投資を要した。そのため、ゴムの木の生産の周期に係る性質、プロジェクト期間、借入人の信用力、商品の需給に関するボラティリティリスク等につき、投資家から理解を得る必要があった。
  • 当該案件の特徴として、ミシュランがRLUに提供したオフテイク契約が挙げられる。ミシュランはRLUによって将来生産されるゴムの最大75%を購入することに同意しており、この点はRLUの将来キャッシュフローとローン返済の確実性向上につながることから、投資家への呼び水となっている。

詳細

発行概要   発行年月 金額(百万USD) 償還期日 利率
A 2018/2 30 2033/2 4.14%
B1a 2018/2 20 2033/2 9.00%
B1b 2018/2 15 2023/2 8.38%
B1c 2018/2 15 2025/2 8.88%
B2 2018/2 15 2033/2 2.00%
中長期計画との関係

TLFFの発足目的は、インドネシア政府の優先事項、パリ協定、持続可能な開発目標に沿って、グリーン成長と持続可能な農業に焦点を当てたインドネシア現地のプロジェクトや企業に長期資金を提供することであり、その長期的な趣旨を踏まえた債券となっている。

フレームワーク

プロジェクトの適格性に関しては、TLFFのESGポリシーへの準拠状況から確認し、インパクトの測定に係る環境・社会指標については、Daemeterが指標・方法の定義を行う。

調達資金の使途

インドネシアの2つの州における持続可能なゴム農園と荒廃した土地の修復

プロジェクト評価及び選定プロセス

ファシリティマネージャーであるADMキャピタルが、TLFFのESG方針と基準を尊重した商業的に妥当な案件を事前に選定し、プロジェクトの環境・社会評価を実施する。TLFFのスポンサーであるUNEP、ICRAF、BNPパリバも当該プロセスに参加しており、TLFFの運営委員会が定期的に開催する会合でプロジェクト候補について議論がなされる。加えて、第三者機関による環境・社会デューデリジェンスも実施される。

調達資金の管理

資金の67%はエスクロー口座に保管され、TLFF I、ADMキャピタルの承認を経て拠出される。残り33%は既存のBNI(Bank Negara Indonesia )からのローン返済に充てられる。資金使途の追跡・確認はBNPパリバによって行われる。

レポーティング

ファシリティマネージャーであるADMキャピタルは、プロジェクトがTLFFのESGポリシーの基準に準拠しているかを確認

外部レビュー

2018年、サステナビリティボンドに対するSPO取得(Vigeo Eiris)
2018年、2019年、年次監査(Daemeterコンソーシアム:Daemeter、CIRAD、Proforest)(図表2)

図表1 案件スキーム概要
  • 図表1 案件スキーム概要
中核目標 アウトプット/インパクト指標
森林の保持
  • 積極的に管理されているHCV(高保護価値) / HCS(高酸素貯蔵)森林の面積(ha)
農村生活の改善
  • コミュニティパートナーシッププログラムで創出された雇用数
  • コミュニティパートナーシッププログラムに参加している小規模ゴム農園の数(パートタイム、フルタイム)
  • 小自作農世帯数
  • コミュニティパートナーシッププログラムの下でゴム関連の外に創出された雇用数
  • 研修を受けている農家数
  • RLUのサプライチェーンに販売している農家数
  • 給与体系
排出量の削減
  • 植樹本数
  • 登録された火災件数
  • 焼失した面積(ha、あれば)
  • カーボンフットプリント(tCO2e)
  • 保護林・人工林が吸収する温室効果ガス排出量(tCO2e)
生物多様性の保護
  • 実施された保全プログラムの数
  • コンセッションで保護されている種の数
  • 野生生物保護区の保護面積(ha)
  • コンセッションで保護されている保護区の生息地の面積(ha)
  • パトロールの範囲と違法活動の発見
  • 図表2:Daemeterコンソーシアム(Daemeter、CIRAD、Proforest)の年次レビューに用いるアウトプット・インパクト指標
  • CBI(2020)“Data”、TLFF (2018) “DESIGN GRANT CASE STUDY”、 Vigeo eiris (2018) ”SECOND PARTY OPINION ON THE SUSTAINABILITY OF TLFF Ⅰ’S SUSTAINABILITY NOTES”、 RLU (2018) ”Sustainability Policy”等を基に環境省作成