対象期間に発行されたグリーンボンドの概要

2019年第2四半期(2019年4月~6月)には、新たに国内の発行体によって7件のグリーンボンドの起債が行われた。これら7件の発行額合計は1,000億円を超え、今年度も順調に発行残高が積み上がってきている。

金融機関では、2019年4月にトヨタファイナンスが、HV・PHV・FCV向けのトヨタ販売店向け融資及び立替払い債権のリファイナンスを資金使途とする起債、ジャックスが太陽光発電設備に関する融資を資金使途とする起債をしている。同年5月には、三井住友ファイナンシャルグループが、再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、バイオマス、小規模水力の開発、建設、運営に関する事業)等を資金使途とするユーロ建てグリーンボンドの起債を行った。

事業法人では、2019年4月にオリエントコーポレーションが、太陽光発電システム、蓄電池、エコキュート等省エネ設備の設置に関するリフォームローン(以下「太陽光リフォームローン」)を資金使途とする起債を行った。

不動産投資法人で、2019年5月に、ユナイテッド・アーバン投資法人が、グリーンビルに係る取得資金・借換資金等を資金使途とした、J-REITとして初の取り組みとなる、リテール・グリーンボンドの起債を行った。日本リテールファンド投資法人も、同年5月に、J-REITのグリーンビルに係る取得資金・借換資金等を資金とした、グリーンボンドの起債を行っている。

国内グリーンボンド発行リスト
発行体 発行時期 発行金額 資金使途(要約) 利率 償還期間
オリエントコーポレーション 2019年4月 50億円 太陽光発電システム、蓄電池、エコキュート等省エネ設備の設置に関するリフォームローンに活用 0.50% 5年
ジャックス 2019年4月 100億円 太陽光発電設備設置を目的とするソーラーローンの実行のために調達された資金のリファイナンス 0.30% 5年
トヨタファイナンス 2019年4月 600億円 クレジット/リース資金を目的としたトヨタ販売店向け融資のうち、電動車の集金保証残高に相応する融資残高、と電動車の立替払い資金残高に対する融資・資金に充当 0.08% 5年
ユナイテッド・アーバン投資法人 2019年5月 100億円 「グリーン適格資産」の取得資金のリファイナンス及び新規投資 0.448% 7年
三井住友FG 2019年5月 5億ユーロ 再生可能エネルギー事業・省エネルギー事業 0.465% 5年
リニューアブル・ジャパン 2019年6月 40億円 太陽光発電事業 非公開 21.2年
日本リテールファンド投資法人 2019年6月 70億円 グリーン適格資産の取得に要した借入金の借換資金 0.20% 5年

グリーンボンドに対する発行体の関心動向

第2四半期については、6件のグリーンボンドが発行されており、前年度の同時期の4件(三菱UFJリース、日本郵船、日本リテールファンド投資法人、三菱地所)に比べて、50%の増加となった。発行体によるグリーンボンドに対する関心が高まっていると考える。また三井住友ファイナンシャルグループは、三井住友銀行による発行も含めて、3回目の起債となり、日本企業でもグリーンボンドを継続発行する動きが広がっていることが伺える。

加えて、第2四半期を象徴する動きとして、財投機関である鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)のサステナビリティボンド、事業会社からは明電舎のグリーンボンドが国内で初めて、CBI認証1を取得したESG債が登場し、いずれも市場で大きな話題を呼んだ。

CBI認証は、その基準が細かく具体的で国際的な認知度も高いことから、これまでのグリーンボンド市場においても、認証は取得しないまでも同基準を意識したグリーンボンドに係るフレームワークの策定や、外部レビューの実施が行われてきた。しかし、明示的にCBI認証を取得するという動きはこれまでになく、適格クライテリアや具体的な資金使途のグリーン性を担保する手段として、CBI認証の取得が注目を集めつつあることを示すものであるといえよう。グリーン性がどのように担保されているのかという点は発行体と投資家双方にとって重要なポイントであることから、今後ともCBI認証の取得を試みる発行体は増加していくものと考えられる。

グリーンボンドに対する投資家の関心動向

2019年4月に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、世界銀行グループの国際復興開発銀行(IBRD)と国際金融公社(IFC)は、調達資金を環境プロジェクトに充てるグリーンボンド、社会プロジェクトに充てるソーシャルボンド、両方のプロジェクトに充てるサステナビリティボンドへの投資機会を、GPIFが運用を委託する運用会社に新たに提案することを発表している。このようなGPIFの動きを受けて、GPIFが委託する運用会社でも、今後、グリーンボンドの投資が増える可能性がある。

また第2四半期を象徴する動きとして、特に5月以降、ESG債に対する自治体、地銀、信金及び信組といった地方投資家による積極的な投資表明2がみられるようになったことが挙げられる。従来は中央投資家が中心として積極的な投資表明を行っていたが、従来から投資表明を行っていた大分銀行や北海道労働金庫などの地方投資家のみならず、地銀や信金、財投債に対しては自治体等が新たに投資表明を行っている。こうした動きが顕著であったのは大東京信用組合で、同組合は、6月にJRTTのCBI認証を得たサステナビリティボンドへの投資表明を行って以降、JICA(ソーシャルボンド)、日本リテールファンド投資法人(グリーンボンド)、大林組(サステナビリティボンド)、ケネディクス・オフィス投資法人(グリーンボンド)とESG債に対して合計5件の投資表明を6月中に行っている。

投資表明の件数とグリーンボンドに対する投資家からの評価は必ずしも一致するものではないが、こうした地方投資家の動向は、債券におけるESG投資への関心の高まりが地方投資家へも波及しつつあることを端的に示すものであり、今後に向けてさらなる普及が見込まれるところである。

その他グリーンボンド市場のトピックス

2019年6月13日にドイツ・フランクフルトにて、ICMAグリーンボンド・ソーシャルボンド総会・カンファレンスが開催された。また同時にグリーンボンド・ソーシャルボンド原則関連で、以下、新たな資料が発表された。今回は原則本文の改定は無く、関連資料を新たに発表しており、インパクトレポーティングに関する取り纏め、Q&Aの拡充、SDGsマッピングの改定等がされている。

  • Handbook Harmonized Framework for Impact Reporting(グリーンボンド)
  • Guidance Handbook (グリーン・ソーシャル・サステナビリティボンド共通)
  • Green Project Mapping(グリーンボンド)
  • Green, Social & Sustainability Bonds: A High-Level Mapping to the Sustainable Development Goals (グリーン・ソーシャル・サステナビリティボンド共通)

また、その翌週には、EUサステナブルファイナンスの一貫として、欧州委員会が設置したTechnical Expert Groupが、以下のドラフトを発表した。

  • EU Green Bond Standard
  • EU Taxonomy
  • EU Climate Benchmark

EU Green Bond Standardドラフトでは、グリーン適格基準のEU Taxonomyとの整合性をはじめ、環境への重大な害の有無、インパクト・モニタリングのレポーティング、認定されている外部評価機関の起用、外部検証の公開が必須となっている。

2018年度下期からは、債権発行と借入の両方に活用できるファイナンス・フレームワークを策定する発行体が増えてきており、資金ニーズに応じて、1つのフレームワークで機動的かつ柔軟に資金調達できる枠組みの活用が広がっている。この背景には、2018年3月に、英国のローン・マーケット・アソシエーション(LMA)及びアジア太平洋地域のアジア・パシフィック・ローン・マーケット・アソシエーション(APLMA)がグリーンローン原則を発行したことを受け、融資においても、資金使途をグリーン資産に限定するグリーンローンの取り組みが徐々に広がっていることがある。

グリーン・ソーシャル・サステナビリティボンドを含めると、6月時点で既に約2300億円(JRTTの発行予定額含む)に達しており、ESG債の発行が広がっていることが分かる。残りの三四半期で国内のESG債の市場がどこまで広がるか注視していきたい。

(参考)ソーシャルボンド・サステナビリティボンド市場のトピックス

2019年第2四半期の特徴として、2019年5月にANAホールディングスが、国内民間企業かつ航空会社として初めて、顧客及び従業員に対するユニバーサル対応を資金使途とした、ソーシャルボンドを発行している。また同じく2019年5月に、大林組がウェルネス建築に係る費用及び再エネ事業を資金使途とした、サステナビリティボンドの発行を発表している。

財投機関では、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)が、鉄道建設業務及び船舶共有建造業務を資金使途とする、サステナビリティファイナンス・フレームワーク(債権及び支柱借入に活用可能)を発表。2019年度は、本フレームワークを活用して、計1,170億円程度の債権発行、及び計487億円程度の借入を予定している。

これら3社の共通点として、初回のESG債はグリーンボンドを発行し、2回目のESG債については、グリーンボンド以外のESG債を発行していることが挙げられる。発行体にとってのメリットとしては、グリーンボンドだけでなく、ソーシャル・サステナビリティボンドとすることで、グリーン案件以外のソーシャル案件を資金使途の対象に含めることが可能となり、対象資産が広がることで、ESG債の継続発行がし易くなることが考えられる。いずれの場合も、初回のグリーンボンドの発行が契機となり、他のESG債に発行が広がっていることが伺える。

  • 1CBI認証とは、イギリスのNGO、Climate Bonds Initiativeが独自に作成する基準(Climate Bonds Standard)に基づいたグリーンボンドに対する国際的な認証を指す。
  • 2投資表明とは、ESG債市場における固有の試みの一つであり、ESG債に投資をしたことを投資家がプレスリリース等で広く発信するものである。