現在、高炭素排出企業による事業活動は、調達資金を充当できるグリーンプロジェクトを持たないことから、グリーンボンド市場での資金調達が難しい。しかしながらこのような事業活動も、長期的な環境への影響も考慮し短期・長期の環境目的がパリ協定の目標と整合的であれば、脱炭素社会へのトランジションに貢献すると考えられる。そして、既にトランジション・ボンドの発行事例が出始めている。一方、トランジションの定義等が必ずしも明確でないところ、一部の投資家からグリーンウォッシングであるとの批判もある。
このような状況のもと、トランジションを促進するためのファイナンスの方法、いわゆるトランジション・ファイナンスについて、近年様々な金融関係者によるガイドラインや調査レポートが出されている。以下、簡単に概要を紹介する。

ガイドライン・枠組み

1.AXA 「Transition bond guidelines」(2019年6月)

トランジション・ボンドとして適格となる資金使途、プロジェクト評価・選定プロセス、資金管理、報告について定めている。ICMAのグリーンボンド原則と同じ構造となっているが、発行体レベルでのトランジション戦略も考慮するとしている。具体的には、トランジション・ボンド発行体は、現在のビジネスモデルと将来のサステナビリティ経営の戦略においてトランジションをどのように捉えているかを明確にし、経営者がそれをコミットしている必要があるとしている。

2.Sustainalytics 「Transition bond second opinion」(2020年6月)

同社がトランジション・ボンドのセカンド・パーティー・オピニオンのサービスの提供を行うにあたり、発行(プロジェクトあるいは活動)レベルのみではなく、発行体レベルも含めて評価を行う旨を表明。発行体レベルでは、国際的な脱炭素パスに則したトランジション戦略とコミットメントがあるか、同戦略と整合する資金使途となっているか等といった点を評価するとしている。

3.CBI/クレディスイス「Financing credible transitions」(2020年9月)

トランジションの定義の考え方を整理したうえで、トランジション・ラベルを導入するための枠組みを提示している。トランジションについて、1.5℃に沿った信頼性の高い目標とトランジション・パスとなっていることなど5つの原則を挙げている。また、2050年にネットゼロ、あるいはほぼネットゼロを実現できる経済活動として、Near Zero、Pathway to Zero、No pathway to Zero、Interim、Strandedの5つに分類し 、それぞれについてグリーンあるいはトランジションのラベル化をどのように行うかの提案をしている。

調査レポート

1.BNPパリバ 「Transition bonds – New funding for a greener world」
(2019年12月)

トランジション・ボンドの概要、利点、課題について整理したレポート。トランジション・ボンドはグリーンボンドと異なる資産クラスであるが、より魅力的なボンドとするためには、幅広い分野への資金配分、主要パフォーマンス指標(KPI)や科学に基づく排出削減目標(SBT)の活用、そして透明性を高めることが必要であると指摘している。

2.HSBC 「Heavy lifting :Why transition is vital to combat climate change」
(2020年6月)

英国においてトランジションが求められるセクターとトランジション・ファイナンスの活用についての利点と課題を整理。トランジション・ファイナンスは、より多くの投資オプションを提示することでより多くのボンド発行体と投資家を呼び込むとともに、目標とする特定の成果にリンクされているため金融市場におけるアカウンタビリティと透明性の向上に寄与する利点があると指摘している。

5分類の定義は以下の通り。

  • Near Zero:現時点で既にネットゼロを達成しているか、はほぼネットゼロを達成しており、今後ネットゼロに向けて若干の取組が必要な活動(例:風力発電)
  • Pathway to Zero:現時点で1.5℃ネットゼロのパスが明確であり、2050年以降も必要とされる活動(例:船舶)
  • No pathway to Zero:現時点で1.5℃ネットゼロのパスが明確ではないが、2050年以降も必要とされる活動(例:長距離旅客輸送
  • Interim:現時点では必要な活動だが、2050年までにフェーズアウトが必要となる活動(例:一般廃棄物由来のエネルギー生産)
  • Stranded:パリ協定の目標に則しておらず、また、他の低炭素手段の代替が可能な活動(例:石炭発電)

以上の他、ICMAはClimate transition financeに関するワーキンググループを立ち上げ、トランジション・ファイナンスに関するガイダンスあるいは原則を作成するべく検討を行っている。