適応ファイナンスとは

適応ファイナンスの基本的な考え方は何か。適応ファイナンスのイメージはどのようなものか。適応ファイナンスが実施されるスキームの例はどのようなものがあるか。同スキーム例のうち、官民ファンド、事業継続マネジメント(Business Continuity Management:BCM)格付・損害保険、レジリエンスボンドの事例を示す。

1. 適応ファイナスとは:基本的な考え方

適応ファイナンスとは

  • 可視化された気候リスクに対して、これに対応するための取組に資金を充当する、あるいはリスクをヘッジすることにより、事業や地域・社会における不確実性を抑制しつつ、長期的かつ安定的なリターン獲得の確度を高めるもの。
  • 予め評価された気候変動による物理リスク・財務影響を軽減・回避するための取組(事業会社の取組に限らず、地方自治体などが実施する公共インフラ事業も含まれる)、またはビジネス機会を獲得するための取組に対する投融資、保険などが該当する。
  • 従来の損害保険やCATボンドに限らず、さまざまなファイナンス手法があり得る。また、適応を目的とした特定のプロジェクトに使途を限定して資金を充当する手法もあれば、適応に取り組む企業や地方自治体などに対して使途を限定せずに資金を充当する手法もある。
  • 金融機関1社ではファイナンスが困難でも、例えば銀行と保険会社が連携するなど、複数の金融機関が互いに強みを持ち寄ることによってファイナンス手法を開発し、実行できるケースも多い。

2. 適応ファイナンスとは:適応ファイナンスのイメージ

適応ファイナンスのイメージ

3. 適応ファイナンスとは:適応ファイナンスが実施される手法例

  • 適応ファイナンスには、ファイナンスの対象となる適応の取組(前頁に示した 取組A、 取組B)に応じてさまざまなタイプ、期待される商品性があり、手法も 多種多様である。
適応の取組 ファイナンスの
タイプ
期待される
ファイナンスの商品性
手法例
(カッコ内は具体例の参照頁)
ビジネス機会を獲得するための取組(取組A) 事業会社などが適応のための技術やサービスを開発・提供する取組に対して資金を充当する 技術やサービスの有用性、期待される効果に応じた評価が可能な商品
  • レジリエンスボンド
  • サステナビリティボンド(26頁)
  • グリーンボンド/ローン
  • サステナビリティ・リンク・ボンド/ローン
  • ポジティブ・インパクト・ファイナンス
  • 官民ファンド(27頁)
自らのリスクに対応するための取組(取組B) 事業会社や地方自治体などが自らのリスクを軽減・回避するための取組に対して資金を充当する(事業会社であれば設備投資、事業運営方法の見直しなど、地方自治体であれば河川改修、土砂災害対策など) 取組によるリスク軽減効果を反映した評価が可能な商品
  • レジリエンスボンド(28頁)
  • サステナビリティボンド
  • グリーンボンド/ローン(29頁)

主に事業会社向け

  • サステナビリティ・リンク・ボンド/ローン
  • ポジティブ・インパクト・ファイナンスBCM 格付融資

主に地方自治体向け

  • 環境インパクトボンド(30頁)
  • PFI(31, 32頁)
  • パラメトリック保険(33頁)
上記取組でも軽減・回避しきれないリスクをヘッジする 保険やデリバティブなど、事象の発生をトリガーとする商品

主に事業会社向け

  • BCM 格付×損害保険(34頁)
  • デリバティブ(35頁)
  • 災害時元本免除特約付き融資(36頁)

主に地方自治体向け

  • 防災・減災費用保険(37頁)
  • CAT ボンド
  • 注)「手法例」は既存の事例に基づいて便宜的に整理したものである。今後開発・実施される手法はこれらに限定されない。

4. 手法例のなかの事例

  1. 官民ファンド
    商業投資と技術支援を受けながら適応技術・ソリューション開発を加速する事例
  2. BCM格付×保険
    銀行の格付機能、保険会社の保険商品やリスクマネジメントのノウハウを活かして防災対策を強化する事例
  3. レジリエンスボンド
    民間からの融資資金を公的資金とブレンドし、森林の復旧活動に活用する事例
1官民ファンド
商業投資と技術支援を受けながら適応技術・ソリューション開発を加速
ファンド設置 LightsmithGroup
概要
  • 2003 年から2013 年の間、自然災害は世界で1.5 兆ドルの経済的損害を引き起こし、そのうち5,500 億ドルは途上国において発生した。気候変動の悪化を念頭に、企業やコミュニティは脆弱性を軽減する方法を模索している。
  • 以上の背景を受けて、適応とレジリエンス強化のための商業投資ファンド「CRAFT」が設立された。気象分析、災害リスクのモデリングサービス、干ばつに強い種子の開発会社等、先進国、途上国双方のグロース株(10〜20 社)を対象に、1ドルの譲許的融資あるいは技術支援助成金に対して3.3ドルの投資を実施した。
  • 標準的なエクイティ投資ファンドの構造に技術支援を組み合わせ、主に途上国での技術やサービスの展開を可能にしている点が特徴。併せて、商業投資家のリスク軽減も考慮されており、リターンの一部は商業投資家に優先的に配当される。
官民ファンドのイメージ
  • 資料)The LabのHPに基づき作成。
2BCM 格付×保険
銀行の格付機能、保険会社の保険商品やリスクマネジメントのノウハウを活かして防災対策を強化
サービス提供 損害保険ジャパン株式会社、株式会社日本政策投資銀行
概要
  • 損害保険ジャパンは、日本政策投資銀行(DBJ)の企業の格付機能を活かし、「DBJ 事業継続マネジメント(BCM)格付」で高い評価を得た企業に対して、工場などの操業が停止した際の損失を補う企業総合補償保険の保険料を最大で20% 割引するサービスを展開。
  • さらに、防災対策を強化したいDBJ の取引先に対して、SOMPOリスクマネジメントから事業継続計画(BCP)の策定支援サービス等を提供している。
BCM 格付×保険のイメージ
  • 資料)損害保険ジャパン株式会社HPに基づき作成。
3レジリエンスボンド
民間からの融資資金を公的資金とブレンドし、森林の復旧活動に活用
サービス提供 Blue Forest Conservation(米NPO 団体)
概要
  • Blue Forest Conservation は、慈善団体を含む民間セクターから融資された資金を公的資金とブレンドして森林復旧活動に提供するモデル(Forest Resilience Bond:FRB)を開発。2018 年、タホ国有林(約60 km2)においてFRB を用いたパイロットプロジェクトを開始した。
  • 森林復旧活動の実施に先立って調達された民間資金は合計400 万米ドル。うち半分は譲許的融資(利率:年1%)、残りは商業融資(利率:年4%、コミットメントフィー:年0.5%)。
  • 返済は、プロジェクト終了後、受益者であるカリフォルニア州政府及びユバ郡水道局から提供された資金を原資として行われる。また、米森林局もプロジェクトの計画や資金提供などで協力。調達された公的資金は合計430 万米ドル以上に達している。
  • FRB による民間資金調達によってタホ国有林の復旧活動は加速。活動期間は当初予定の10~ 12 年から4 年程度に短縮される見通し
レジリエンスボンドのイメージ
  • 資料)Blue Forest Conservation 資料「Case Study: The Forest Resilience Bond (FRB)」(2020 年6 月)に基づき作成。